ハラスメントの相談の流れ
参考:「職場におけるハラスメント関係指針」(厚生労働省)
https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/
被害者が相談だけしたい,とりあえず話だけ聞いてくれたらよいというような場合も多くあります。そのような場合は,話を聞く)だけで終了することもあります。
しかし,被害者が「会社に対応してほしい」と希望した場合や,行為者への事実確認が必要と思われる場合は,その先の対応が必要となります。
各種ハラスメントの相談の流れはおおむね次のようになります。
(参考)厚生労働省「パワハラ対策7つのメニュー」
1. 相談窓口によるヒアリング
相談窓口担当者は,相談者に寄り添う態度で,じっくりと話しを聞いていきます。もっともよいのは窓口担当者からの質問は最低限にして相談者からのお話しを聞くだけ,とされています。
1回の相談時間は50分程度が望ましいとされます。相談が1回で終わらない場合は,次の相談日を設定して切り上げます。相談者も感情的・情緒不安定になっている場合が考えられますから,相談者が一度気持ちを落ち着かせて,客観的に事実を話せるようになるためです。相談を受けつける際,事前に時間の目安について伝えておくといいでしょう。
2. 事実確認のヒアリング
相談者が調査・行為者への訴えその他,会社に対して何らかの対応を希望した場合は,最初に事実確認を行います。事実関係の調査については,相談者からの訴えをもとに了承を得た上で,行為者へのヒアリングを行うのが一般的です。
このときに気を付けるべきは,行為者が相談者に対して意識的または無意識的に報復となる行動をとる可能性があることです。パワハラ行為者の多くは,パワハラ行動をしている意識がうすいか意識がまったくありませんので,パワハラと指摘されたということだけで過剰に報復行動に出る場合が往々にしてあります。したがっていきなり行為者にハラスメントにつながるような行為がありましたか?などと聞くことは通常ありません。まずは行為者に調査していることを悟られないように職場内の状況を確認します。外堀が埋まってから,行為者(とおぼしき方)に事情を聴くことになります。
行為者へのヒアリングでは,中立的な立場から,相談者の訴えと行為者の主張の合致するポイントと,相違するポイントを確認します。その後,可能であれば,直接見聞きしていた周囲の第三者(目撃者)に対してもヒアリングを行います。
第三者に話を聞く際には,事前に相談者と行為者双方に「事実確認のため,◯◯さんに話を聞きます」という旨を伝え,承諾を得ておきます。これを怠って調査を敢行すると,相談者と行為者のプライバシーの侵害を問われるおそれがあります。
また,ヒアリングする第三者に対しても,必ず冒頭に「ここで聞かれた内容,話した内容,事実確認の調査中であること自体も口外しないこと」という守秘義務について告げ,約束をしてもらいます。これらの情報が漏れて噂などが広がった場合は,相談者や行為者への人権侵害になりうることについて理解を得てください。また,風評が広がった場合には会社内の職場の雰囲気が間違いなく悪化します。
社内の就労環境をよくするための相談窓口なのに,逆の結果をうむことになってしまわないように配慮しなければなりません。
3. 行為者の措置を検討する
事実確認により状況が明らかになったら,措置検討に移ります。人事労務担当者,相談者・行為者の上司と連携をとりながら,パワハラについて自社の就業規則,裁判例などを踏まえて,対応案を決定します。
パワハラの3要素や6類型などにもとづいてハラスメントがあったと認められ,懲戒に値すると判断した場合は,減給,降格,出勤停止,懲戒解雇といった懲戒処分を下すことになります。なお,被害が大きい,深刻だと考えられる場合は,解決方法について,すみやかに弁護士や社会保険労務士に相談してください。
ここでも問題になることが多いのは,パワハラ行為者はパワハラをしている自覚がない方が多いということです。自身の行動に問題を感じていないので,そのまま懲戒処分をしても,相談者や会社に対する不満だけが増加して事態が改善されないことになります。重要な点は行為者に対してどのような行動がパワハラと評価され,自身の行動のどの部分がパワハラにあたるかを詳細に説明することです。
さらに行動がパワハラであったかどうかの評価をするのは,行為者や相談者などの当事者ではなくあくまでも第三者であり,第三者が就業規則や法令・ガイドライン等をもとに公正に判断してパワハラであると認定した以上,行為者個人の考え方や価値観などは判断材料にはならないということも明確につたえなければなりません。
逆に公正に判断してハラスメントとしては認められない,という場合もあります。その場合であっても相談者や行為者とされた方に対してその判断基準などを丁寧に説明することが求められます。特に相談者が感情的になっている場合など,なぜハラスメントとして認められないか,を丁寧に説明できない場合には職場の雰囲気が悪化します。
また,会社が相談者から民事訴訟を提起される可能性がある場合は,紛争の長期化を避けるため,個別労働紛争解決制度の斡旋手続きや,労働審判を活用することができます。